KONONEKIができるまで其の一

kononeki/ねき記
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KONONEKIは織屋建の京町家長屋の一部をリノベーションして営業しています。間口は狭く、奥行きの長い典型的なうなぎの寝床造りだと思います。

織屋としての役目を終え、空き家となった京町家は手入れを怠ればあっという間に朽ちてしまいます。築80年以上なのですから当然と言えば当然の話しです。京都中にKONONEKIの様な京町家は無数にあります。働く家として京都に生まれ、働く家として京を支えた織屋建の建物。まだ私は役目を終えたくない、まだ京の皆んなの役に立ちたい。そう言っている様に最初に見せていただいた時に感じました。

 この家が働いていた頃は、西陣織の織物屋さんだったのでしょう。家の中は土間が打ってあり、織機が置いてあったであろう場所には鉄骨が埋まっていました。長い間、重い織機を支え続けた土間が仕事場の雰囲気を醸し出していました。玄関を入って右手には、土間から「よっこいしょ」と思わず声が出る高さに和室がありました。子供の頃に友だちの家に遊びに行くと、土間から和室の床に腰を掛けて、業者の方がお話されている光景をよく見ました。腰を掛けるには良い高さですが、上るとなると結構な高さです。段差が非常に多いのも京町家の特徴です。
 「ここから先は仕事場ですよ」と一枚の引き戸で奥は隔絶されています。仕事場から玄関を見て上に視線を上げると、そこには二階のガラス戸が見えます。仕事場には裸電球がぶら下がっています。点灯消灯は根本のツマミをひねるのですが、子供の頃は電球の熱でよく火傷をしました。仕事場ですので、電気の配線もむき出しで壁や柱に碍子で支えているだけです。さすがにこの配線を使用するわけにはいけませんので、新たな配線を引いています。碍子は利用していませんが、店内のどこかに残しています。探してみて下さい。

 二階の階段は9段しかなく、非常に勾配がきつい階段です。建物の前面3分の1程度が二階になっており、その下は土間の廊下と、4畳半の二部屋があるだけです。居住スペースとしては必要最低限。二階の道路面は屋根が下がってきているため、屈まないと歩くことはできません。窓を見ても天井が低いことがわかります。祖母の京町家も同じ様に低く、子供の頃は秘密基地みたいで好きでした。仕事場から上を見上げると、天窓の付いた屋根が見えます。屋根までの高さは非常に高く開放感のある空間です。大きな梁が屋根に沿って登っていき、真っ直ぐではない梁がどこか昇り龍のようにも見えます。梁には長年のほこりが黒い雪の様に積もっています。今回リノベーションを依頼した奈良県生駒市を拠点とされる株式会社Grafさんも「この梁のある家のリノベーションを是非お請けしたい」と仰ってくれました。
 居室の窓からは表の格子が透けて見えます。光を程よく取り込みつつ、外からの目を程よく遮る。格子の組み方を観察してみると、当時の専門の職人が作ったのだろうと思うほどしっかりと組み付けられていました。なるべく、この格子は残しつつリノベーションしよう。Grafさんと意見が合いました。

 機屋の仕事場として機能はできても、KONONEKIとしては機能できません。職人の生活を根から支えていた作業場を解体していきます。必要最低限で作り込まれた壁はいとも簡単に解体されていきます。裏から玄関に向けて撮影していますが、その奥行の長さが分かる写真になりました(右上)。左上の写真は、作業場になる前は恐らく外。作業を行なうために増築された部分だと思います。トイレのタイルが室内側に見えますが、その昔はトイレは外(庭)にあったのだと思います。私の祖母の家も昔は外に厠があったそうです。
 庭側の壁にはシロアリに荒らされた痕跡がありました。長い年月をかけて少しずつ荒らされた壁はもろく、たちまち解体され、その役目を終えました。しかし、建物の躯体を構成する柱は全くの無傷。阪神大震災にも耐え抜いたこの京町家。「まだまだ私は働けます」そう言っているように感じます。
 解体が終わった空間には凛とした静寂が広がっていました。天窓から薄く光が差し込み、作業場を照らし出します。これから作られていく空間に期待が膨らんできました。建物には機屋としての工場の役割を終えてもらい、今度はくつろぎと安らぎを与える空間としての仕事を手伝ってもらいます。

 何十年分のホコリでしょう。機織りをされていた物件とすると、生地のホコリも当時は相当舞っていたのかも知れません。通常ではこの梁の上を掃除することは到底できなかったでしょう。長い脚立を利用して、大工さんと一緒に私も掃除、出来ることは全て手伝います。掃除してホコリを落としてあげれば、見事な一本の梁がきれいな姿を見せてくれました。何十年に渡って人の暮らしを支えた建物の汚れを取ってあげることができました。
 掃除が終われば、いよいよ改装工事に入ります。まずは床を拵えていきます。既存の土間は、機屋の仕事を支えた埋められた鉄骨もそのまま残し、その上に床の大引きを作ります。奥行きの長い京町家なので一直線に大引きが走ります。その上に根太を引き床材を貼るための下地材を貼り付け。お客様席エリアに平坦な床がようやく出来上がりました。入り口周辺の土部分にはコンクリートを流し込み、厨房としての床を拵えます。